近年、凶悪な「犯罪」が急増しています。一昔前では考えられなかったような子供による「親殺し」、あるいは親による「子殺し」など、特に「肉親間」での殺人が増えています。一番親しい間柄であるはずの「親子関係」に、いったい何が生じているのでしょうか。
また若者による巧妙な「知能犯的」な犯罪も増えています。「振り込め詐欺」といわれるこの種の犯罪は従来にはなかったタイプの犯罪であり、テレビなどを中心とした多様な文化で育ってきた世代の特徴といえるでしょうか。
こうした「犯罪」のみならず「通り魔的な犯罪」など原因のはっきりとはわからない「凶悪犯罪」も増えてきました。一昔前に比べて高学歴社会となり、世間の質的なレベルも向上しているはずなのに、どうしてこうした犯罪が増えてくるのでしょうか。
昔のある学者は「犯罪の原因」は「低学歴」にあると考えていました。しかし必ずしもそれだけではないことを現代社会が「証明」しています。「琉球四柱推命」でも犯罪者の経歴と「心理構造」の関わりについて分析してきました。するとこうした犯罪の「影」には、目に見えない「複雑な運命的」な背景があることが見えてきたのです。
「なぜ私だけがこんな目に遭うのでしょうか」
犯罪の被害者は異口同音に同じようなことを言います。世間には多くの人がいるのに、なぜ自分だけが悲惨な目に遭わねばならないのか、それは誰でも考える理屈でしょう。
以前に尋ねてきた相談者も同じようなことを言いました。
「信頼していたのに裏切られてしまって」
彼は50歳くらいの男性でした。小さな「金融会社」を個人で営んでおり、経営は苦しいものの何とか「運営」できるほどの収入がありました。数人の信頼できる部下を雇っていましたが、それが少し甘かったようです。数年前に採用した男性に多額の「資金管理」を任せていましたが、その人に会社の資金をごっそりと「持ち逃げ」されたのです。
「それから経営は一気に苦しくなりました。それ以来、何とか借金で穴埋めしていますが・・」
男性は深いため息をつくと、眉間にしわを寄せたまま黙ってしまいました。
「そうですか、それは大変でしたね」私は気落ちしている男性を励ましながらその原因を探っていきました。資金の持ち逃げ、つまり「横領」ということですが、まさかそのようなものまで運命の流れの中に現れてくるのでしょうか。私は頭の中であれこれと考えながら、男性の「基礎データ」を分析していきました。
「琉球四柱推命」ではこれまでも犯罪の「被害者」「加害者」の運命を調べてきました。
その結果わかったのは「犯罪の背後」には複雑に絡み込んだ運命の「因果」があるということでした。ただそれが全てではありません。犯罪のすべてが運命的な「原因」をもつわけではないのです。もし犯罪の全てに運命的な「因果関係」があるとすれば、犯罪の「起点」、つまり「最初の犯罪」は起こりようがないわけです。
要するに「鶏が先か卵が先か」の論理と同じです。これらの因果は相互に「循環」しているのであり、それを輪切りにして説明するのは「ナンセンスな話」なのです。こうした話は必ず論理の「パラドックス」に陥ります。
私は言いました。「犯罪の被害に遭われたのはいつですか?」
まずはその時期を調べることで運命的な「因果」を探ることができます。男性は言いました。「去年の〇〇年です。本当に大変な年でした。他にも色々なゴタゴタがありまして」
男性はその一件だけではなく「人間関係」でも多くの苦労があったと言いました。
その通りならば「その事件」は単に偶発的なものではないかもしれません。「偶発的」なものの場合は事件に関しても一過性の「単発的」なものが多いからです。その反対に何らかの「運命的な原因」があればそれは「単発的」なものではなく、この男性のように他にも嫌な出来事が「連続して起きやすい」のです。
私は彼の言ったその〇〇年を調べていきました。すると予想通りに運命的な「原因」を持ったものだったのです。
「その事件は〇〇年の不和年に発生しています。そうした年に生じる出来事はあなたの過去の運命に関わる何らかの原因が存在することがほとんどです」
男性は私の予想もしない発言に驚いたようです。上気した顔は赤みを帯びて怒りを含んだ声で言いました。
「私に原因があるというのですか。たしかにその人に資金管理を任せたのは大きな間違いだったことは認めます。しかし・・」
いかなる「被害者」もその原因の一端はあなたにもあると言われれば憤慨するのは当然かもしれません。しかしこれはカルマの法則的な「反射作用」の一つなのです。私は言いました。
「その原因はあなたの過去に必ずあります。あなたはそれを覚えていなくてもその原因がどこかにあるのです」
男性は少し興奮した様子でした。自分は「被害者」なのに、なぜ自分の責任を問われるのか。そんなバカな話があるものかと考えているのでしょう。眉間にしわを寄せて不機嫌そうに下を向いていました。
私は男性の「基礎データ」をさらに分析しながら「原因」を探っていきました。「不和年」というのは基本的にその人の潜在記憶にある「カルマ」を発動させます。ですから男性の〇〇年に生じた現象は、そうした「カルマの背景」を持つことになります。もしその年にネガティブな現象が生じれば、それは「心の深層」にある過去の「カルマ」が発動し、それに沿う「現象」を生じさせるのです。
それは意味のないものではありません。それは男性自身の心を軽くするためにも「必要な現象」であり、もしこうした「負の記憶の解放」という現象がなければ、その男性は別の「病気」「事故」などの形でそれを「現象化」させてしまうことにもなるのです。
「あなたの内部にある心の影がその〇〇年に現象化してきたようです。それがあなたの運命を悪くする元凶なので、あなたはむしろその解放という現象を喜ぶべきでしょう」
私が言うと、男性は驚くよりも呆れた表情を見せました。犯罪の被害者にその事件を喜びなさいというほうに無理があるのは当然です。しかし男性の運命はその事件によってこれまでの重たい「心の負債」を軽くし、実際に良い方向に向かい始めたのです。
ネガティブな「深層心理」を解放せずにそのまま持ち続けると、将来は「がん細胞」のように増殖していくことがあります。自分のストレスを極限まで「溜め込み」増殖させ、ついには社会の人々を「震撼」させるような凶悪な犯罪者はこの「典型例」といえます。
初期の「心の歪」みは小さなものです。それは「癌の芽」にたとえられるでしょう。「癌の芽」は初期段階で対策を施すことで「治療」をすることができます。これと同じように心の病気にもまったく「同様な原理」があるのです。
多くの人々も様々な理由から「心の歪み」を持つものです。ただ普通の人は健全な方法によってそれを「解消」していきます。
たとえば趣味に熱中したり、好きな「食べ物」を食べたり、友人と「楽しく」過ごしたりします。ところが世の中にはすごく「不器用な人」がいて、そうしたストレスを上手に解消できない人がいるのです。こうした人は溜まる「ストレス」をどんどん増殖させ、最後には自分でも「制御できない」ほどに大きくしてしまうのです。
もしその人が「自己抑圧的な性格」であれば、「病気」や「事件」などで自分自身を殺してしまうでしょう。それが自分に甘い「自己本位な人」であれば、その対象は周囲の人に向けられるでしょう。心の中にある「歪曲した心理」がどんどん溜まっていくことで、「不和年」が巡る時に大爆発をすることになります。
これは人の「心理構造」が自動的に起こす現象なので、自分の「意思」で完全に止められるものではありません。なぜならその「原因」となるものがすでに過去に形成されており、その「不和時期」に見るのはこれまでの「結果」にすぎないからです。
満杯になった「風船」から吹き出すガスのように、こうした不和年には次から次へと「トラブル」が続発します。こうした「心の原理」を知らない人は、それを何かの「祟り」だと思うかもしれません。ただそれは「祟り」などではなく、自らの「心の奥底」から湧き出てくる過去の「負の記憶」なのです。
具体的には過去に経験した周囲の人への「怒り」「恨み」「悲しみ」などです。これらの「負の記憶」はその性質ゆえに人前で出すことができず、「心の奥底」にため込んでいきます。しかし人間の持つ「心理構造」はどんな「嘘」も付けないように、そうした「負の記憶」を表に現象化させる「構造」を持つのです。
時間で動く「心の周期リズム」を持つことで、こうした心の奥底に溜め込んだ「マイナス想念」を表に出していきます。それは「年単位」だけではなく「月単位」「日単位」「時間単位」にも存在し、人間の「心理構造」と相応してみごとに機能しているのです。私は男性にこうした「運命の原理」があることを詳細に説明しました。
「うーん、そんな世界があるのですか」。男性はこうした世界の存在をすぐには信じられないという感じでした。私は彼の「心理構造」をみてさらに確信を持ちました。彼の「心理構造」は実に驚嘆すべきものだったのです。
彼の関心のすべてが「金銭的な貪欲さ」に向けられていました。彼は自意識の強い人であり、非常に「見栄っ張り」な性格でした。またそうした性格とは裏腹に「金銭」に対する感覚はとても細かく、常に自分が損をしないように「計算するタイプの人」でした。それは一般的な心理バランスからするとかけ離れたものであり、彼自身はそうした人生に何の疑問も持たずに歩んできたのでしょう。
そうした彼の「歪んだ生き方」が彼の心理を重たいものにしていました。現実の彼は「金銭」のことばかり考えていましたが、「深層心理」の中ではそうした自分を相当嫌っていたのかもしれません。それが今回の事件を引き起こした可能性も否定できないのです。
彼は自分の目の前から「金銭をなくす」ことで自分の健全な心を「回復」させようと目論んだのではないでしょうか。それが彼の人間らしい心を復活させる唯一の「荒療治」だったのかもしれません。彼の運命の底部にある「深層心理」はそのことをよく知っており、「横領」という大規模な事件を引き起こすことで彼の「心眼」を開かせようとしたのでしょう。
「金銭」にしか関心のない彼にとっては相当にショックな「出来事」だったのでしょう。しかし今回の事件は彼の「新しい転機」になるのです。運命は歯車を変えて新しく回りつつありました。むろん彼はそうした現実を知りません。彼はいまだに「被害者意識」を引きずっており、自分を裏切った部下を憎んでいました。ただすぐにはこうした運命を理解できなくても、未来にはこうした運命の事実も理解していくことでしょう。
「犯罪」ーそれは忌むべきものであり憎むべき存在です。ただそうした「犯罪」の中にも何か深い「理由」があるようです。それは人間の「理解」をはるかに超えており、その本当の原因は「深層心理」の中でしか理解できないこともあるようです。「忌むべき犯罪」がこのようなものであるならば、私たちは自らの「心の中」を覗き込んでその「本当の原因」を探らねばなりません。こうした「プロセス」を経ることで犯罪に対する私たち人間の考え方は「コペルニクス的な転回」を生じさせるかもしれません。