かつて「負け犬」という言葉がはやりました。30歳を過ぎで未婚の女性をいうそうですが、何とも嫌な感じの言葉に聞こえるのは私だけでしょうか。
そもそも人生に「勝ち組」とか「負け組」とか、勝敗を決めることじたいが「無意味」のように思えます。人生は勝ち負けで決められるほど「単純」なものではなく、人それぞれに「価値」が異なるものです。「百人」いれば「百通り」の運命があり、「千人」いれば「千通り」の運命があります。いかなる運命であってもそこには何らかの「意味」があり、その「価値」は人によって決められるものではないと思うのです。
社会的な「ステータス」や「金銭」の有無、「家柄」や「既婚」「未婚」かで人生が決まるほど、人の運命は単純なものではありません。
ですが結婚しない人が増えているのは確かに気になるものです。「核家族化」の影響なのか、あるいは「個人主義」の時代なのか、とにかく昔の時代では考えられないほど「未婚者」が増えているのは事実でしょう。こうした「結婚」についてのテーマがいわれるとき、決まって言われるのが「なぜ結婚しなければならないのか」ということではないでしょうか。
そもそも「結婚」は強制されて行われるものではありません。生物学的にみても「雌雄」が結びついて共生するのはごく自然に行われていることです。それは「思考」の産物ではなく、「身体的な感覚」に沿って行われる自然の働きでしょう。ではなぜ人間だけが「結婚」という選択をするのでしょうか。私はそこに人間の高度な「心理作用」が介在していると考えます。つまり言い換えれば結婚とは高度な「精神性」に由来すものだということになるでしょう。
「私には異性との出会いがほとんどありません。結婚して人並みの家庭を築きたいのですが・・縁がまったくないのです。なぜでしょうか?」
ある30代の女性は深刻そうな顔をして語りました。その顔から察すると、これまでずっと一人で悩んできたのでしょう。特別に「容姿」が悪いというわけではありません。どこにもいる平均的な顔であり、背格好もごく普通の人です。見た目には彼女が結婚のことで悩んでいるとは誰も思わないでしょう。
「そうですか。縁がないのですか。運命的にみてそうした何かの障害が出ているのか、少し見てみましょう」
まれに結婚そのものに「障害」の暗示が出ている人がいます。「障害」といってもピンからキリまでありますが、軽度から重度なものまで人によって「様々」と言えるでしょう。
では何をもって「結婚の障害」というのか。未婚の人には気にかかるところでしょう。結婚できない運命というと何か「因縁」めいたものを想像する人もいるでしょう。たとえば「先祖の因縁」だとか、「前世の祟り」だとかを言う人がいます。ただ私が運命を研究してきた限りでは、「結婚の障害」は先祖の祟りや因縁などの外からやってくるものではありません。
それは自分自身の「心の中」に存在するのです。それは心の内部、つまり「潜在意識」の中にあるのです。私はこの女性の潜在意識の「心理構造」を調べていきました。女性はなかなか「異性」との縁ができないと言いました。「縁」ができないというのは潜在意識の中にその原因があることが多いのです。
まず、女性の全体的な「心理構造」を見ました。すると予想外の結果が出ていました。女性の心理構造は「異性への関」心に大きく偏っていたのです。これは私が今まで見てきた結婚に関する「障害」パターンとはあきらかに違っていました。異性との「縁ができない」という彼女の言葉とは矛盾しているようです。
「失礼ですが異性との縁がないというのは本当ですか。私が見たところではあなたは異性との縁が強そうに見えますが」
女性は一瞬、驚いたような表情を見せました。少し黙っていましたが、ゆっくりと喋りだしました。
「たぶん先生が言っているのは私の心理的なことを言っているのだと思います。私は異性に関心がないわけではありません。関心は人より強いかもしれません」
人の潜在意識の構造からわかるのは、その人の現実的な状態というよりも、その人が持っている「関心」や「願望」です。
たとえばこの女性は確かに「異性」との付き合いはありませんでした。ただ関心じたいは強く持っていたようです。私が読み取ったのはこうした「潜在的な要素」だったのです。ではなぜ現実的な状態と潜在的なものとにすれが生じたのでしょうか。
普通、こうした大きなずれは生じません。そこに彼女の結婚に関する謎を解くカギがある、私はそう直感しました。
「そうですか、関心が強いというのは合っているわけですね。ではなぜそれがうまくいかないのかを調べてみる必要がありますね」
私はそう言うと、彼女の心理構造をさらに深く分析していきました。
彼女の心理構造はたしかに「異性への関心」で多くが占められていました。それを裏付けるように彼女の「対人傾向」も「性的な機能」と関連していました。異性に自分を合わせて柔軟にへりくだる情緒的な部分が発達しています。
次に「愛着性」の対象を見ていきます。その人の「愛着性」を調べることでその人の「本質的な関心」がどこに向かっているのかを知ることができます。彼女のそれは「異性への関心」へと向かっていました。総合的に判断すると彼女が異性に対して「強い関心」を持っていることは、ほぼ間違いないようです。
ではどうして彼女はその気持ちを素直に表現できないのでしょうか。年齢的にいっても「異性との交際」は普通にあってもよいはずなのです。私は釈然としない思いを抱えたまま、次に彼女の「運命周期」の流れを読んでいきました。
「運命周期」の流れは潜在意識の心理構造に変化を与える要素です。突然、「性格」が変わったり、「気質」や「体質」が変わったりするのは外部に原因がなければ、ほとんどがこの「運命周期」の影響なのです。もしかして彼女もこの「運命周期」の影響で異性との関係がうまくいかないのかもしれません。
私は彼女の「幼少期」から見ていきました。「幼少期の状態」を知ることで生育期に受けた影響を予測することができます。彼女の「幼少期」はごくおとなしい「平穏や周期」でした。その時期は「温厚な性格」であり、親のいうことを素直に聞く子供であったことが想定できます。ただやや「引っ込み思案」なところがあり、学校生活では多少の「気苦労」があったと思われます。
次の周期の変化は13歳ごろに起きていました。この時期は「自意識」が強くなる周期であり、この頃から「親からの自立心」が強まっていったことがわかります。通常ならばこの頃から「第二次成長」がはじまり、異性への「関心」が強くなる時期です。ところが彼女の「自意識」は異性への関心をストレートに表現できず、それが「複雑なコンプレックス」を形成していたのです。
彼女の生まれつき「強すぎる」異性への関心の中に、彼女の「自我的な要素」が混在していました。それは彼女の「心理構造」にある種の「反発」を生じさせ、「心の歪」みを生み出していました。それは「現実の異性」に対して彼女の「自意識」を弱気なものにし、異性への「態度」を硬化させていたのです。
そして現実の彼女は「潜在意識」の内部で作用する「複雑なコンプレックス」を感じて異性との「距離」を置いたのかもしれません。もちろん彼女は自分のこうした「無意識の作用」を知りません。ですから頭の中では人並みに異性との「交際をしたい」と考えるのです。しかし無意識の彼女はそれを嫌っており、知らずうちに「異性を避けていた」のかもしれません。それは複雑な「心理構造」が生み出す結果だったのです。
「異性との縁がないというのは、あなたが無意識に避けてきた結果のようです。あなたの深層心理は異性に対してのコンプレックスを形成しており、それは異性に対してのアレルギー的な反応を生じています」
私が言うと彼女はすぐに反応しました。
「私自身がわざと異性を避けていたというのですか、信じられません」
彼女は自分の「深層心理」の想いには気づいていませんでした。ただ、この影響は「周期的な運気」によるものですから、時間が過ぎ去れば自然に「解決していく」でしょう。これは潜在意識の心理構造が生み出した結果であり、必ずしも彼女自身に「何かの問題」があるわけではないようです。ですから彼女の中にそれに対する「自覚」がなかったとしても仕方のないところでしょう。彼女の運命にはもうすぐ変化の時期が近づいていました。
「あと1~2年すれば自然に問題は解決していくでしょう。時間の流れがあなたの心理状態を変化させていき、あなたは素直に自分の気持ちを表現できるようになります。そのとき結婚に関する障害は消えていくでしょう」
彼女の運命の「変化点」はすぐまじかに迫っていました。あと1~2年もすれば彼女の「心理構造」は確実に変化するはずです。その変化が起きれば彼女の異性に対する「わだかまり」は完全に払しょくされるでしょう。周期の巡りによって「心理バランス」を崩していた状態がもうすぐ解消されるのです。
「先生、ではその時期が来れば結婚もできるのですか」彼女はうれしそうな表情で言いました。
「もちろん、あなたの運命には結婚に関する障害はありませんので、あなたが望めばそれも十分に可能でしょう」
彼女の心理構造じたいには「結婚に関する障害」はでていませんでした。ですからこの「周期」が過ぎれば、すぐにでも「結婚」できるでしょう。彼女の結婚に対する思い入れの強さからすると、それはすぐにもで「実現する」と思われました。
「そうですか、本当に良かった。ありがとうございました」
彼女は心の底から喜んでいるように見えました。人に言えずに1人で悶々と悩んできたのですから、その答えが本当にうれしかったのでしょう。
今回の彼女の運命の在り方は、結婚に関する「運命の複雑さ」を感じさせるものでした。彼女は結婚に憧れて異性によく尽くすタイプの人でした。そんな彼女が30歳近くになるまで異性と何の交流もなく静かに過ごしてきたのです。
それは「結論的」には彼女の「運命周期」の中に秘めた「原因」があったわけですが、こうした運命の流れが彼女の若い時期に巡っていたことは、ただの「偶然ではない」でしょう。
彼女は「結婚の前」にあえてこうした「異性を避ける時期」を設けることで、異性へ耽溺しやすい自分への「戒め」としたのではないでしょうか。要するに若い自分の行動が「暴走」しないように、「冷静な期間」を設定したのです。結婚したあとに彼女がこうしたことに思いを巡らすことはないでしょう。家庭を大事にし、それをうまくやりこなす彼女にはこうした時期が「重要な時期」になると思われます。
彼女はこの時期に大事な「何か」を学んだことでしょう。それは彼女の運命をより強いものにしていました。いつも「幸福な状態」でいることが「運命の本筋」ではありません。運命じたいが「学びのため」に存在していることがわかれば、彼女のような「苦しい経験」も受容できるようになるのです。